Instagramフォロワー数7万人超。SNSで多くの支持を集めるイラストレーター・ロンザエモン。
奄美大島の離島で育ち、幼少期から漫画を描き続けてきた彼は、進学を断念し、病気でペンを置かざるを得なかった時期もあったとのこと。
それでも「描く」ことだけは手放さず、やがてイラストという舞台に立つことを選び、現在にいたります。
本記事では、描きたいのに描けなかった日々を経て、今なお絵を描き続けるロンザエモンさんの歩みを伺ってみました。

ロンザエモン
1990年生まれ。鹿児島県奄美大島出身。
高校卒業後、家庭の事情により進学を断念し、独学で漫画家を志す。
2015年にクローン病を発症し、活動の方向性をイラスト中心へと転換。2020年には再び病状が悪化し療養を余儀なくされるが、復帰後はガールズイラストを主軸に創作を続ける。
自身の経験をもとに、SNS発信や運用代行、企業・個人向け講座、講演活動などを通じて「絵を仕事にするための情報発信」に注力している。
Keito今日はよろしくお願いします。



よろしくお願いします。
始まりは“漫画家への夢”




本人提供:ロンザエモンさんの作品



ロンザエモンさんって、いつから絵を描いているんですか?



幼少期から絵は描いていましたね。中学生の時にノートに漫画を描いてました。
当時はナルトの劣化版みたいなのは描いてたと思います。(笑)



その時から漫画が好きだったんですね。



そうですね。自分で描いた漫画が結構続いちゃって。友達に見せたら喜んでくれたし、気づいたら数百ページくらい描いてました。
そんなことをしているうちに、いろんなポージングが表現できるようになって。「漫画って楽しい!」って思うようになりましたね。



じゃあ、その時から漫画家を目指していたんですね。



そうだと思います。
ただ、僕は鹿児島県の奄美大島が地元で、漫画とかアートを学べる環境がなかったんです。
なので、高校を卒業したら専門に行きたい、と漠然と考えていました。



なるほど。じゃあ高校を卒業するまでは独学って感じですか?



そうですね。元々バスケもしていたので、部活をしながら絵を描く、みたいな生活だったと思います。
高校では美術部に入ったんですけど、「漫画を描くために美術部に入る」というのは少し浮いていました。



その感じはわかる気がします。
じゃあ、高校を卒業してから、大学や専門で漫画を学ぶ感じですか?



いや、そうではないんです。(笑)
漫画の夢。そして、病の日々



そうではない、というと?



実は高校2年の時に父が勤めている会社が買収されて。
買収した側の企業が「従業員を一新」する方向で、父が職を無くしちゃったんです。



それは、キツイですね……



それだけが原因じゃないと思うけど、うちは金銭的に余裕がなくなっちゃって。
進学は難しいかも、と親に言われました。



なるほど。



ただ、大学とか専門に行かなくても漫画家になっている人はたくさんいます。
就職はしたくなかったので、1年くらいはバイトしながら絵を描いてましたね。



その活動は、家族は応援してくれていたんですか?



あまり干渉しないタイプですね。ただその時は、次の仕事が見つからない父親と、部屋からあまり出ない僕に対して、母はイライラしてたかもしれません。
そういう状況もあって、鹿児島本土の会社にプログラマーとして入社しました。



プログラマー?!



プログラミングに興味があったわけではなく、島を出るために就職した感じです。
プログラミングスキルはないので、半年くらいでやめてしまいましたが。(笑)



ちょっと意外な経歴ですね。



その後は、福岡に住む親友の家に半年ほど住まわせてもらってから、一人暮らしを始めました。
近所でバイトをしながら、ひたすら漫画を描いていましたね。



じゃあ、そこからコンテストに応募したり、出版社に持ち込んだり?



先にいうと、そこまで活動できなかったんです。



というと?



親友の家で半年くらい漫画を描かせてもらっているタイミングで、福岡に編集が来てくれる機会があって。
一生懸命描いた作品を見てもらいました。



それはチャンスですね!



でも、ボツでした。



ボツでしたか。



ボツくらったのも辛かったけど、同時期に体調が悪くなったんです。
1年くらい治らなくて、蓋を開けてみたら「クローン病」っていう病気にかかっていました。それが22〜23歳くらいの時ですね。
※クローン病:国の指定難病(指定難病96)に定められている「炎症性腸疾患(IBD)」
参考:
難病情報センター 「クローン病(指定難病96)」
厚生労働省 「96 クローン病 概要資料」



それまで漫画を描くことは、キツくても楽しかったんです。
ただ、体調が悪くなってからは本格的に辛くなってしまいました。



漫画を描くって尋常じゃない作業量ですもんね……
病と断念を越えて漫画からイラストの道へ



社会復帰したのが25歳くらいで、その当時はコールセンターで働いていました。
ただクローン病って完治する病気じゃなく、まだ体調も悪かったです。仕事中は本当に辛かったですね。



その時、漫画は描いていたんですか?



残念ながら、漫画を描く体力はありませんでした。
絵の仕事はしたいって思っていたので、描けるときはイラストをひたすら描いてましたね。
ただ、コロナ禍にまた体調を崩してしまい、大きな手術を受けることになりました。



手術まで……



お腹に穴を開けて、5本くらい管が入ってました。(笑)なので、漫画を描くってのは物理的に難しかったんです。
コロナ禍の影響もあり、そこからは休養って感じですね。



「絵を描くことを諦める」という感情にならなかったんですか?
正直、それどころじゃない気がしていて……



絵をやめるつもりはありませんでした。
どちらからというと、「漫画が描けないなら、イラストで結果を出してやる」って思ってましたね。



すごいですね……脱帽です。



とはいえ、病み上がりで仕事もなかったし、誇れる実績もありません。
なので、「本気でSNSやって絵の仕事をとろう」と決意しました。
執念と論理で得た結果



確かにロンザエモンのSNS、フォロワーすごいですよね。アクティブなファンも多い印象です。
どうやって、SNSを伸ばしたんですか?



最初の180日間は毎日投稿していましたね。
投稿した作品や発信内容によって「いいね」の付き方が変わるので、いろいろ試行錯誤しながら発信していました。



具体的にどんな分析をしていたんですか?



例えば、イラストの表情をカメラ目線から外してみたり、背景色の色だったり。あとは……金髪の方が伸びるけど、自分の絵のバリエーションがなくなるから違うスタイルをテストしたり。
データを見ながらテストを繰り返す、ってことを徹底してたと思います。



マーケターに近い発想ですね。継続できることもすごいです。
ただ、体調は大丈夫だったんですか?



正直にいうと、辛かったです。
ただ、「自分にはこれしかない」って想いが強くて。当時は「これが最適解」と思ってたので、絶対にやり続けようって考えていました。



もう、努力より「狂気」を感じます。
それで、SNSから依頼がくるように?



そうですね。制作依頼だけじゃなく、イラストの描き方を教えたり、講演会に呼んでもらったり、仕事の幅は広がりました。
SNSを通してのつながりも増えましたので、やってよかったと思います。
ロンザエモンさんの今後について





体調との兼ね合いもあると思いますが、今はイラストに専念するのでしょうか?



そうですね、今はイラストがメインです。
とはいえ、“漫画を描きたくない”みたいな感情はありません。
ありがたいことにお仕事も貰えているので、今はイラストに軸足を置いています。



なるほど。お話を聞いていると、外的要因が多すぎて漫画が描けない状態だったと思います。
漫画への想いは、自分なりに折り合いはつけられたのでしょうか……?



なんとも言えないところはあります。
正直にいうと、あの時本気で頑張ったら道は変わったのか、と思うタイミングはありました。



あの時……ですか?



実は、過去に漫画の作品を持ち込める機会がもう一度あったんです。
その際は編集の方に好印象を与えられた感じでした。



それはチャンスな匂いがしますね……



現場には僕を含めて3人いて、僕だけ名刺をもらって解散したんです。
こういう感情は良くないかもだけど、「自分にはチャンスがあるかも!」って思ったんです



僕も同じこと思います。



とはいえ連絡先を交換したくらいで、何もなかったんですけどね。(笑)
それから2〜3年後、「福岡在住の新人作家がアシスタントを募集している」って話を人づてにもらって。やりたい、と手を挙げました。



現場を経験できるチャンスですね!



それが、先ほど話した、作品を持ち込んだとき現場にいた一人だったんです。



…そんなことあるのか。



僕は原稿に触るのも慣れてないし、作業も遅かったんです。結局仕事を巻き取ってもらったり。
報酬はちゃんといただけたので、逆に悔しい気持ちになってましたね。



時期的には、その後くらいに入院したんですか?



そうですね。
それで、いつも読んでいる連載誌を買った時、彼が本誌デビューしてたんですよね。
その後、連載が決まって、今はアニメ化まで進んでいます。



その時、どんな心境に……



さっきお伝えしたように、「あの時本気でやったら、自分の道も変わったのかな」って思いました。
病気の問題はあるにせよ、もっとできたんじゃないかって考えてしまいます。



理解はできますが……複雑ですね。



ただ、僕が描いているイラストは、漫画のように、あるシーンの一部をカメラで切り取っているんです。ストーリーの中の1シーンみたいなイメージですね。
なので、漫画っていうコンテンツを捨てた、とは思っていません。



確かにロンザエモンさんの作品は、どこかストーリー性を感じます。



ありがたいことに、絵を仕事にする夢は叶っています。お仕事もいただけているので、今は目の前のことに全力でコミットしたいですね。
もちろん、この先どんな仕事をしているかは、僕にもわかりません。それは、未来の自分に期待したいと思います



なんだか、色々考えさせられる時間になりました。
貴重なお話、本当にありがとうございます。



こちらこそ!楽しかったです!
編集後記
ロンザエモンさんのお話を伺っているとき、ふと、8年ほど前に出会った、余命幾ばくもない方の言葉を思い出しました。
その方はこう言っていました。
「人間の不幸には、2つの種類があると思う」
- 自分の選択肢を奪われること
- 他人の選択肢を奪うこと
ロンザエモンさんは、今もなお「自分の選択肢を奪われているのかもしれない」と感じました。
漫画家を目指していた頃は、前を向いて走りたい気持ちがありながらも、病という枷(かせ)が足を引き、それは今も続いています。
にもかかわらず、「自分の体がどうなろうと、絵は諦めない」と語るその姿には、狂気にも似た信念を感じました。
ただただ、圧倒されます。そして、本当に、かっこいいと感じました。
というのも——
ロンザエモンさんって、「めちゃくちゃ謙虚」な方なんです。(本当に)
言葉を選び、相手を立てる。そんな誠実な人柄からは、心の中に「強烈な信念」があるなんて、正直思っていませんでした。
(……どうやら“黒いロンザエモンさん”もいらっしゃるようですが(笑))
お話にあったとおり、彼は「物語のワンシーン」をイラストにしています。
だからこそ、作品にストーリー性があり、見る人の心を動かすのでしょう。
ロンザエモンさんは展示だけでなく、ライブペイントや壁画制作など、幅広い表現の場で活躍されています。
作品を目にできる機会も、きっと多いと思います。
ぜひ、作品だけでなく、本人ともお話ししてみてください。
きっと、「自分も頑張ろう」と、背中を押されるはずです。
※「ロンザエモン」さんの展示情報は、ご本人のSNSをご確認ください。
>>ronzaemon(Instagram)










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